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中⽥佳代⼦舞踏公演 En Silencio 〜静寂なる祈り〜
- 2024/11/23
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- フラメンコ, 中田佳代子, 静寂なる祈り
「祖先から受け継いできたこの命は、もはや大事にして後世に繋げていく。そう思った時、フラメンコを踊る時、今まで私の人格を私自身が否定して来た事に気がつき、自分の感じたこと、経験したこと、語りたいことをもっと自由に、そしてパーソナリティを大事にこれからは表現していきたい、そう思ったのです。」 中田佳代子
これまで精⼒的に舞台作品を世の中に送り出しているフラメンコ舞踏家・中⽥佳代⼦さんによる、2年振りの公演「En Silencio〜静寂なる祈り」。構想10年とおっしゃる今回の公演について、その思いを語って頂きました。
― 今回の公演「En silencio〜静寂なる祈り」について、開催に⾄るまでの経緯や、伝えたいメッセージなどありましたら、教えてください。
タブラオで何も合わせず即興でやるフラメンコ、アドレナリンが出るフラメンコは楽しいし⼤好き!だけど、“中⽥佳代⼦”が訴えたいこと、伝えたいことがあって、それをフラメンコの技術と表現を使っての舞台作品を作りたかった、それがこの公演です。
― 中⽥佳代⼦さんの ” 伝えたいこと ” とは何でしょうか︖
スペインに住んでいると、社会問題などを日本とは違う視点で考えることも多く、国際的に広がる不安定を、ロシアの国の上を飛行機が飛べなくなり、⽇本への帰国時間が⻑くなったことで実感したり、ガザの映像を目にする機会も多々あり、この世の中には、私たちの知らないところで沢山の社会的問題がある事を感じます。
そして、私のパートナーがバルセロナの社会問題を扱う⼈権フォトジャーナリストで、彼と⼀緒に活動することで学ぶことも多いです。
今まではフラメンコにしか興味がなかったのですが、段々に社会の一員としてこの世の中の役に立ちたいと思うようになって来ました。
結婚してから、自分のパートナーの活動に、通訳として参加したとき原爆の記録に触れ、先⽇ノーベル平和賞を受けた被団協にも通訳の⽴場で参加し、当時のとても辛い戦争の時代の経験談を聞く機会をいただきました。 しかし、今はその当時被ばく者としてインタビューをさせて頂いた⾼齢の⽅たちも、半数以上が亡くなっておられます。
そんな、ここで受け取った「平和への強い願い、叫び」を、何とかして世界に伝えたいという思いがあります。
こういう歴史があったことを、偶然にも⾃分はインタビューを通して知ることができましたが、世間的には日本でも知らない⼈も多いだろうと思っています。
実際に、バルセロナの⼩学校でこの作品En Silencio創作中の一部分を⾒てもらったところ、やはり皆この歴史があったことを知らなく、このとき(被ばくの体験は)時間が経てば経つほど「無くなっていく声」なのだと感じました。
世界では現在も争いは続いているけど、いつどうなるかわからないこの世の中でこうやって生きていられる、何気ない幸せを大事にしたい。そして、今現代の私たちは先祖の方々の犠牲の上に平和に暮らせてもらえている事を改めて痛感したのです。
― とても壮⼤なテーマですね。実現に向けて、きっかけのようなものがありましたら、教えてください。伝えたいことを、フラメンコという表現を使って作品にすることについてもう少しお聞きしたいです。
この作品を作ることになったきっかけは、マリア・パヘスのテアトロでのアーティストレジデンス(作品制作の為に制作場所を3週間程提供していただく)に合格して、何らかの作品を作らねばならない機会を得た時に、平和を望む思いを伝えたいと考えに至ったところからです。あまりにも漠然としすぎて、どうやって伝えていけばいいのか悩みました。悩んでいたら、事務局の⼈が、「それが芸術家の仕事だからぜひやるべきだ」と⾔って背中を押してくださり、覚悟を決めて制作開始しました。
作品を作るなかで、アーティストたちが集まると、そこにとてつもない化学変化が起きるんですね。音楽やダンスには国境がないんですね。「区切り」とか「区別」があるからドンチャン騒ぎが起きるんでしょうね。
そんないろいろなことが急に起きるこの世の中で、作品を通じて「平和だな、幸せだな〜」と思ってもらえたら嬉しいと思います。
― すごく平和を願っておられると感じます。でも、それをあえて⾔葉にしないことを意識されている。わかりやすいものを押しつけるのではなく。
お客さまには「感じて」ほしい。作品は、⾃分の声・抗議(マニフェスト)。
それを⾒た⼈がそれぞれに感じてほしい。どう感じるかのジャッジはお客様にお任せします。
舞台側として、「こういうことを伝えたい」という”軸”は共演者の中に在ります。今回もご一緒させていただくアーティストの方々もとても素晴らしく、鐘の⾳を聞いただけで曲を⽣みだしてくれたり、歌詞や表現を一緒に考えてくださったりして、みんなで真剣に作品を作り上げるのに協力していただいています。
― 岩⼿、東京、⼤阪の3拠点を選ばれた理由は︖
岩⼿は私の地元ですし、東京は日本の中心で、私自身長く住んでいました。この2か所だけでも十分なのかもしれませんが、実は⼤阪は大好きな街なので、思い切ってまた公演しに行かせていただくことになりました。2公演と3公演では負荷が全く違いますが、それでも今回も3都市で開催させていただきます!
― これまでの公演でも、着物をイメージした⾐装や和太⿎、⺠謡との共演などがあったかと思いますが、今回もアイヌの歌や踊りに影響を受けたという歌⼿の床絵美(とこえみ)さん、胡⼸•三味線奏者の本條秀慈郎(ほんじょうひでじろう)さんといった、和につながる⽅と共演されます。フラメンコの公演に和の要素を⼊れることは意識されているのでしょうか。
実は、和にこだわったわけではなくて、ただ単にこの音を「表現するのに必要」な⼈たちにオファーさせていただきました。
床絵美さんは、アイヌの原住⺠であり、阿寒に在住されているというところから来る彼⼥本来の歌の魅⼒があります。胡⼸・三味線のプロフェッショナルである本條さんは、彼がコンテンポラリーの方々とのコラボレーションで弾いている姿を⾒て、この⼈だ︕と直感しました。最初は表現したい音を考慮し、チェロやコントラバスの楽器も視野に⼊れて探しましたが、本條さんを知った時、ビビっときてすぐ連絡をして、話し合っていくうちに、やりましょう︕と承諾してくださいました。 スペインから出演してくださるギターのアルフレッド・ラゴスさんとカンテのダビ・ラゴスさんも、コンパスを支えてくださる三枝雄輔さんも、超一流の素晴らしい超絶フラメンコ。国境なき超一流楽団で踊らせていただける事も、今だに信じられません。その分のプレッシャーも半端ありませんが・・・・(笑)
― ⽇本・スペインという違う拠点の、しかも、違う分野で活動するアーティスト達をまとめ、表現したいことを伝えて舞台公演を作り上げる、というのはすごいこと、本当にエネルギーがいることで、中⽥さんにしかできないことだと思いました。
それこそこんな大変な企画者の⾃分は、平和で穏やかじゃないですよね(笑)。毎日、狂いそうな程の忙しさです。劇場公演を打つのは、1人ではできません。
とうほぐチームワークで頑張ってます!
本当は、平和にそして安定して暮らしたいのですが、私の性格上、常に戦っていたい⼈なんだと思います。まだ⼩さい子供の育児と、おばあちゃんの介護、クラス、それだけでも⼤変ですが、私は舞台表現をしないと死んでしまう⼈なのでしょうね(笑)。
⾃分がいつも安定している状況に居ないというのは、カタルーニャで孤独を感じていることもあります。
アンダルシアには一般的にフラメンコを愛する土地の⼟台がありますが、カタルーニャはその⼟台がなく、私はフラメンコをしているという奇妙な日本人!というカテゴリーです(笑)。
アンダルシアに⾏けば、街にコンパスが流れて、フラメンコを街中でわいわいやって…というイメージですが、バルセロナなどの大都会では、フラメンコ舞踊というより、中⽥佳代⼦舞踊であるのか?ということが重要視されるような気がします。要するに、「オリジナル性」です。
― フラメンコの舞台作品を作ることへの想いについてもう少しお聞かせください。例えば、タブラオでフラメンコを踊ることとの違いや、即興性のあるフラメンコを舞台作品にするということについてはいかがでしょうか。
フラメンコが⼤好きでスペインに⾏って、それを地の果てまで勉強して素晴らしいフラメンコを踊れるようになるのを目指し、練習まっしぐら。最初は、醤油顔の純ジャパニーズだけど、フラメンコが好きだから!とタブラオにも出させていただきました。
マドリッドの劇場公演で舞踊団員の一員として毎日舞台にも立たせていだだきました。
でも、いい意味でも悪い意味でも、やっぱり見た目で目立つんですね、日本人は(笑)。
私って、超少数派なんだと感じて来ました。
そこから「⾃分の人格を探し始める」に変わり、そこから「何を語りたいのか?何を伝えたいのか?」に変わっていきました。そのタイミングで舞台作品に興味を持ち始めました。
かといって、瞬間に燃えるタブラオフラメンコも⼤好きです!作品作りとタブラオの即興フラメンコは全く別物で、どちらも私の人生には欠かせないものです。これらは全く両極に位置しており、舞台作品は台本があり、音響や照明を使いエモーションを作り上げる舞台。
タブラオは、その場で全て作り上げていく真実の即興の舞台。
前にタブラオで「ティエント」を踊ると言ったのに、バックミュージシャンが「ファルーカ」を演奏し始めた事件がありました。「ファルーカ」を一度も踊ったことがない中で、あれこそ本当の意味での即興でした。
フラメンコってすごく愛とパワーがあるものですよね。もともとリズムはアフリカからきているし、プーロは遡れば紀元前。すごく元気がもらえる、パワーがもらえる、⼒がある芸術の踊り。フラメンコはすごいと思っています。まだまだ勉強不足ですが・・・。
国際的にもフラメンコはますます広がり世界を救う、そんなすごいパワーがありますね。
― 最後に、Flamenco2030は、フラメンコのすそ野を広げるというコンセプトでスタートしたWEBサイトです。フラメンコの初⼼者の⽅々に向けてのメッセージをお願いします。
フラメンコの教室を2007年岩⼿県で始めてから今も続けていますが、今すごく思うのは、「上⼿に踊ること」だけでなく、へレスの町なかみたいな感じの、「コンパスを共有する」ことに意識が移ってきたということ。リズムとハレオは愛そのもの。そのなかで踊れるって最⾼じゃないですか︕
(東北は)震災で⼀度何もかもなくしている、盛岡で1週間電気がないという経験をしましたし、沿岸部の教室の⼈たちはとても辛い思いをしました。そんな時に私たちが元気づけられたのはやはりフラメンコでした。フラメンコはスペインの⽂化かもしれないけど、地球の裏側の人たちにものすごい影響を与え、元気や勇気を与えてくれているのです。
今はコンパスを繋げていき、歌い、そして輪の中で踊る「フィン・デ・フィエスタのブレリア」に⼒を⼊れています。それを初⼼者の⼈たちにも広げていけば、もっとフラメンコが広まるのでは、と勝手に思っています。一人一人が人生の、あなたのフラメンコの主役なのです。
コロナのパンデミックの時に教室のみんなで歌を勉強し、みんなでブレリアを歌えるようになりました。誰も⼀⼈にしない、みんなでコンパスという名の愛を共有するフラメンコ。それを広げていきたいです。
あ、あと、カスタネットは超最⾼なボケ防⽌楽器ですよね︕
近い将来、岩手で「ブレリア世界⼤会+ボケ防⽌カスタネット運動会」!
これをやりたいですね(笑)。
<インタビューを終えて>
中⽥佳代⼦さんの中にある表現したいもの、それを、フラメンコという愛と⼒がある踊りを通して公演として作り上げるまでの取り組み。すべてのお話が愛に向かっていて、惹きこまれました。インタビューが終わるころには公演を⾒たいと思わずにいられませんでした。中⽥佳代⼦さんがフラメンコに載せて表現するものを、是非多くの⼈達に⾒てほしいと思います。
インタビュー︓⽥中美智⼦、タマラ、萩森琴美(⽂)