第4回フラメンコ・ビデオ・フェスティバル 全ビデオ紹介&コメント

 フラメンコWEBフェスティバルも4回目。コロナ禍で、ライブを行うことも難しかった2020年に始まってから4年。フラメンコを取り巻く環境も変わりました。初回、44本、2回目37本、3回目23本から、今回は17本と参加者の減少はライブが増加していることと無関係ではないでしょう。社会が元に戻り、仕事や日々の暮らしに忙しく、自由にできる時間も少なくなった、ライブがあるので取り立てて表現の必要もなくなった、のかもしれません。

 そんな中、ビデオで参加してくださった方々、ありがとうございます。皆さんの様々なフラメンコを、フラメンコへの思いを垣間見ることができて楽しかったです。練習風景あり、舞台あり、家での演奏あり、群舞もあればソロも、一人二重奏もあり、とバラエティに富んでいます。

 さて今回も個人的な感想を少し書きますね。あなたが作ったビデオがどんな風に見られるのか、という例の一つだと思っていただければ幸いです。なお、写真はYouTubeのサムネイルです。

 

エントリーNo.1今城直子『歓喜?悲劇?エスコビ自作のリアル』

普段は誰も誰にも見せない舞台裏を公開している?というのが素晴らしい。ほんと、フラメンコって難しい。こういう地道な努力の毎日こそが大切。私たちが楽しんでいるいつもの華やかな舞台も日々の大変な努力の上に成り立っているのだなあ、と改めて感じさせてくれるビデオでした。こういう地道な稽古の様子を見ると、いつもえらそうにあれこれ言ってすみません、って気になります。

エントリーNo.2 Kana de Mendoza『Mi renacimiento』:Solea por bulerias

マントンの刺繍のようなボディに白いフリルが段々にたくさんついたスカートと肩のフレコが素敵な衣装を着て、お化粧もアクセサリーも本番さながらに、スタジオで踊っています。ギターと歌もライブのようなのでここはアーティストのお名前も書いて欲しかったかもです。きちんと学んでいらした方なのでしょう、ちゃんと一曲としてのまとまりもできています。欲を言えば表情の変化ももう少しあってもよかったかな。あとささいなことかもですが、黒ストッキング、衣装が白いので目立っちゃうかも。肌色の網ストッキングとかの方が白い衣装にはいいかもです。

エントリーNo.3Pianillos(ピアニージョス)黒川あかね、篠田恭代『espíritu』siguiriya 入賞

ピアノとパリージョ、すなわちカスタネットとサパテアードでの共演。フラメンコの踊りはパーカッションでもあるということを端的に示していますね。互いに見合ったりしているところがいい感じです。なお、ピアノとパリージョでピアニージョとのことですが、スペイン語でピアニージョというと小さなピアノという意味になってしまうので、日本はともかくスペインだと名付けた意味は伝わりにくいかもです。

エントリーNo.4牧野貴史(ギター&パルマ)、稲葉晶子(パルマ)『Dos Guitarras~Camino del Viento (Bulerias)』優秀賞/エンターテインメント賞/ソニアジョーンズ賞

ギターソロの一人二重奏。映像も、右と左でバックのマントンの色を変える、最後の目線を工夫する、マントンをバックにしたパルマを挿入する、などビデオならではというのを考えて作られていますね。フラメンコ以外のジャンルの音楽をブレリアのリズムで、というのは大昔から行われていますが、フラメンコを知らない人にもフラメンコに親しんでもらうためにもとてもいい試みだと思います。リズムをキープして、オリジナルの音楽の雰囲気も壊さずというのは難しいと思いますが、うまくできていると思います。他の曲も聴いてみたくなりますね。

エントリーNo.5タマラ・ラボ『Violín Siguiriya 〜バイオリンのシギリージャ〜』モリアーティのテーマ「シャーロックホームズ」オリジナルサウンドトラックより(作曲:平松加奈)最優秀賞/カサアルティスタ賞

フラメンコ公演の舞台でもご活躍されている平松加奈さんの曲からイメージを膨らませ、ビデオならではの編集もうまく使って、素敵に仕上げています。フラメンコのリズムは使っているものの、フラメンコらしくないドラマチックな曲のイメージを膨らませて、フラメンコの基本的な動きを上手に使って群舞を構成しています。群舞では一人一人の動きと同じくらいフォーメーション、コンポジションも大切だと思いますが、それを上手に使っています。みんなが同じように踊ることができなくても問題ないのです。たとえそうでも、みんなで力を合わせて一つのものを作ることができる、いい例だと思います。

エントリーNo.6井上奈緒『カジュアルフラメンコDE MI NOMBRE』入賞/アクースティカ賞/OFC賞

確固たる自分を持ってフラメンコに取り組んでいる、という感じがします。世界的なヒットを飛ばしているロサリアの歌うタンゴを曲のイメージ通りのかっこよさで踊っています。華やかな衣装やアクセサリーがなくてもフラメンコはフラメンコ。稽古着でも普段着でもジャージでもおしゃれ着でもパジャマでもフラメンコを踊ることはできますね。親しみを持ってもらうためなら、普段着、普段、学校や会社や買い物に行くような格好でもいいかもしれませんね。

エントリーNo.7相坂直美『初めてのカンテ(Mi primer cante)』アレグリアス (Alegrías)

これまで踊りで参加していた方が今回はギターを弾き語りで、アレグリアスを歌っていらっしゃいます。多角的なアプローチ、素晴らしいですね。初々しいのが魅力ですが、フェスティバルのために録画しているからか、ちょっと固くなっているかな。もっとご自分で楽しんでいるような感じが伝わってくるとすごいんじゃないかと思いますが、とにかくどんどんトライして世界を広げていらっしゃることにオレ!であります。

エントリーNo.8日本に恋した、フラメンコ『着物でセビジャーナスen Sevilla』セビジャーナス(てぃんさぐぬ花、春の舞い、こんぴら船船)入賞/裾野拡大賞

全国各地で続けてきた永田健さんのプロジェクト、着物でセビジャーナスが日本を飛び出し、セビジャーナスの故郷、セビージャへ。セビージャのスペイン広場とトリアーナをのぞむ河岸で、着物姿で踊りまくります。ついに本場へ。セビージャの美しい空の色や景色に和装がミスマッチ?いや案外映えます。和装の趣向も浴衣、モダンな着方など色々、足元はフラメンコシューズが多いのかな。個人的には金毘羅船船がツボでした。長さといいあつらえたよう。異国での撮影ということで許可関係やなんやかんや色々大変だったと思います、お疲れ様でした。

エントリーNo.9ラスピエドラス(ちえみみちこようこyりょうこ)『野中亮子と素敵な仲間たち』ハレオ 〜ラニーニャ デ ラ ベンターナ〜atelier BENIKO賞

ここでいうハレオはフラメンコのライブを見せる店タブラオのクアドロと呼ばれる複数の踊り手が歌い手、ギタリストと共に舞台に座っているスタイルで、それぞれのソロ曲の間に踊り手たちによって歌われた短い曲のことで、エストレマドゥーラのハレオとは別物です。ラ・ニーニャ・デ・ラ・ベンタ、旅籠の娘を、ベンターナ、窓の娘としたのは、撮影した場所の外が見える大きな窓からでしょうか。普段着でナチュラルに、声を前に出してしっかり歌っている女性をパルマで支え、一緒に踊り出す感じ、楽しそうでいいですね。なお、この曲は今年生誕100周年の歌手で女優のローラ・フローレスが歌ってポピュラーになった曲です。

エントリーNo.10岐阜フラメンコサークルエルビエント『岐阜フラメンコ絵巻』美濃和傘タンゴ優秀賞

神社の風景から始まり、おやっと思わせます。松の絵が描かれた幕のある、昔の芝居小屋での発表会?の映像をまとめたもの。老若男女、振袖の下に黒いスカートをつけて踊っていたり、薙刀を使ったり、スペインの扇アバニコではなく、日舞用のような扇や和傘を使ったり、マントンのように掛け軸日本を、和を意識した構成になっています。振袖タンゴを中心に音楽はそのままで他のシーンの映像を入れている力作です。次回は歌も日本語でいけそうですね。

エントリーNo.11出演者:Ren Imoto『初めての自作ブレリア』Bulerías入賞/S.I.E.co,Ltd賞/マンサニージャ賞/ラバリーカ賞

ご自宅なのでしょうか、ソファに座ってリラックスした感じで演奏するブレリア。初めての自作、とありますが、初めてだとはとても思えません。曲としての流れもまとまりもあり、素晴らしいと思います。フラメンコのギターソロではクラシックと違って、自作の曲を演奏するのが基本なので(タブラオなどではパコ・デ・ルシアなどの有名曲を演奏する場合もありますが、リサイタルなどの場合はオリジナルというのが不文律みたいになっています)作曲家としての能力も要求されるわけですね。最近はハビエル・コンデのように歴史的な名曲を本家さながらに演奏するタイプのギタリストもいますが。どんどん自作を増やしていってくださいね。楽しみです。

エントリーNo.12飯塚真紀、相田繭佳、青木麻奈、kaco、笠美日、山崎双葉『童謡ゾウさんブレリア en Jerez』Bulería

誰もが知っている童謡をブレリアのリズムに乗せて歌って踊っちゃお、という楽しい企画。スペインだって、子供の歌や歌謡曲などをブレリアにのせるのは昔からやっているので、なるほど、という感じ。衣装を着て化粧をして違う自分になるフラメンコもいいけれど、普段着で日常の延長で楽しめるフラメンコも楽しいね、という感じ。シャンソンやジャズも日本語で歌っているし、フラメンコだってどんどんやってみるのが吉ですね。こういう試み広がっていくといいなあ。

エントリーNo.13Lola y Juan『Malagueña de la Peñaranda』Malagueñas y Verdiales

アメリカからのご参加です。難しい節回しを一音一音なぞるようにしてきちんと歌っています。揺らぐところもありますが、一番いいのは歌っている方も伴奏している方も、フラメンコを愛しむように、楽しそうにしていらっしゃるところだと思います。好きこそものの、というのは本当にありますよね。また他の曲も聴いてみたいという気になります。

エントリーNo.14内田好美『DEVELOPING〜発展途上〜』カーニャ(ORIGINAL TECNO)優秀賞/ナジャハウス賞

非常に興味深く面白い意欲作。屋外で踊る映像に、カーニャのラメントとレトラ、屋内で録音しただろうサパテアードと打ち込み風のリズムを合わせた音楽、と、昔ながらのフラメンコとは全くちがうのだけど、サパテオで結びついているというか。しっかりしたフラメンコの基礎があるので、そこから色々考えて、どんどん自分の宇宙を作っていく人なのだな、と。カーニャをカーニャたらしめているものはラメントとレトラだけではないので、果たしてこれをカーニャと言っていいのだろうか、などと、みているこちらにも色々考えさせるところも含めて面白い作品だと思います。

エントリーNo.15菅沼聖隆、Aimi『Solea por bulería』青山TORO賞

ギターのイントロ、かっこいいですね。なんか不思議な雰囲気だな、と思うのは白黒の映像ゆえばかりではなさそうです。発声や声質、歌い方がとても日本的なように思います。いっそ、日本語で歌ってみたらどうかな、と思ったり。似合いそうです。いや、スペイン人の真似をしなくてはいけないというわけではないのですが、スペイン語でフラメンコを歌うならうスペイン人をいっぱい聴いて真似するところから始めるのも悪くないように思います。

エントリーNo.16島田武(ギター)、中村一郎(カンテ)『タブラオにて』ペテネラエンリケ坂井賞

最初にスペイン語で忘れられない色々なところで歌ってきました、と語りがあり、最初は無伴奏で歌い始め、そこにギターが加わります。歌い込んでいる曲だけに自信を持って朗々と歌い上げています。無伴奏の時に気をつけて発音していた語頭のrの巻き舌が次にはぼやけたり、スペイン語のアクセントがちょっと違うところがあったり、など、まだもっとよくなる余地もありそうですが、個性を表現するという意味で、これはこれでいいのかもしれません。

エントリーNo.18:栗原武啓『家でのんびりフラメンコLa Cartuja グラナイーナ』プリメラギター社賞

ヘラルド・ヌニェスの名曲を演奏。今ちょっと本家を見てみたけれど、もう25年前の曲なんですね。でも全然古くならない。年を経てもいいものはいい。いたずらに新しいものに飛びつく必要はないと、落ち着いた演奏を聴かせてもらい、改めて教えてもらっているような気がします。メロディ、リズムと同じくらい、方向性、呼吸、間合いもフラメンコには大切ですね。

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