『En silencio ー静寂なる祈りー』大阪公演 鑑賞記

2024年12月18日(水) 心斎橋PARCOSPACE14にて、中田佳代子さんの舞台公演、『En silencio ー静寂なる祈りー』を見てきた。

<出演者>
中田佳代子 (主演・バイレ踊り)
ダビ・ラゴス(カンテ)
アルフレッド・ラゴス(ギター)
三枝雄輔(パルマ・踊り)
床 絵美(歌)
本條秀慈郎(胡弓・三味線)

公演前のインタビューでお聞きしていた、中田佳代子さんの「伝えたいこと」つまり「平和への祈り」。この、形のない壮大なテーマをどのように表現するのか想像がつかなかった。が、公演を見終えて、中田さんの思いは出演者チームにきちんと伝わっていることがわかった。すべてのアルティスタの魂が「伝えたいこと」に向かって一つにまとまっていた。

この公演の撮影許可を頂けたので、撮影した写真から印象的な場面をピックアップして鑑賞記としてまとめた。

1_Origen 儀式歌

公演の始まり。暗闇の中で、床絵美さんが奏でるアイヌの楽器の音色が響き、中田佳代子さんが佇んでいる。

床絵美さんのアイヌの歌声の中で踊る中田佳代子さん。

儀式の最後、二人の心が一つにまとまったように感じた

2_Diario 日常

ダビ・ラゴスさんのカンテで三枝雄輔さんのブレリア。

床絵美さんがアイヌの楽器を奏でる。ブレリアの空気が一瞬息をひそめる。

中田佳代子さんが加わり、再びブレリアの空気が会場を包む。フラメンコの日常。初めて拝見する中田佳代子さんと三枝雄輔さんのフラメンコは、相性がよく共通の美しさを感じ、このブレリアをずっと見ていたいと思わされた。この舞台の表現の軸はフラメンコである、ということがまっすぐに伝わった。そして床絵美さんのアイヌ音楽も自然にそこに在ったのが印象的だった。

3_La campana 鐘

アルフレッド・ラゴスさんのギターソロ。ただひたすら美しい。

ダビ・ラゴスさんのカンテが加わり、フラメンコの音楽の世界を堪能。歌詞がわかればもっと感じるものがあっただろう。

4_Esperanza 希望

本條秀慈郎さんの三味線のソロ。日本人の感情を表現するのに三味線の音色はとてもしっくりくると感じた。

5_Cilencio y Caotico 静寂と混沌

三味線の音から始まって、舞台に伏せていた中田佳代子さんが徐々に体を起こし、踊り、最後は光に向かって立ち上がる。

舞台の照明が変わり、パリージョ(いつの間に手に着けた?!)を使った表現に。真っ赤な照明の中で翻るファルダ、鳴り響くパリージョの音…中田佳代子さんのこの舞台に載せた思い…平和が脅かされていること…を強く感じた。

エネルギーを内側にため、気持ちの爆発を予感させる。

最後は白い光に包まれる。混沌の中にも希望のようなものを見たのか…。

6_Oscridad 暗闇

本條秀慈郎さんが弓で奏でる、感情を引っ掻くような音色の中、中田佳代子さんが黒い布を纏い藻掻くように舞う。暗闇の中に居る不安を感じさせながらも、どこか幻想的。そして、あらためて三味線の音色は日本人の感情を表現するのに合っていると感じた。

終盤の印象的なシーン。

7_Una madre ある、ひとりの母

暗闇のなか、スポットライトに照らされた中田佳代子さんの手が舞う。

感情の強さを象徴するような、マントンの速さ。

強い緊張感が、一瞬、解けたような表情に変わる。

「Una madre ある、ひとりの母」は、ある母親の後悔や苦しみが作品になったとプログラム詳細のエピソードに書かれている。それを全身全霊のパワーで表現する様子は圧巻。このパワーを浴びていると、中田佳代子さんに、さあ、あなたも!と、自分の背中を押されているような気持ちになった。

8_Nana 子守唄

床絵美さんが唇で奏でる不思議な音。赤子に聞かせる子守唄の始まり。中田佳代子さんはマントンを赤子のように抱く。

9_Romance del Silencio 静寂なる叫び

本條秀慈郎さんの三味線が鳴り、床絵美さんとダビ・ラゴスさんが声を合わせる。

フラメンコのカンテとアイヌの歌が、こんなに調和して一つの音楽になることは驚きだった。腹の底から声を出すその力強さは人類共通で、お互いを高めあい受け入れあう。静かな佇まいの床絵美さんが放つパワーがダビ・ラゴスさんのパワーとしっかり噛み合っている様子は、今回の公演で一番印象的な場面だった。そして、最後に本條秀慈郎さんが、ハレオを入れるべき完璧なタイミングで「べべン!」と三味線を高らかにかき鳴らされたのには痺れた。この組み合わせを発想し実現したことが凄いことだと感じた。

10_El camino a la pez 平和への道

ダビ・ラゴスさんが恭しくマントンを手にして現れ、中田佳代子さんに渡す。受け取った中田佳代子さんはそれを身に纏い、さあ、何かが始まる!

真っ白なバタマントンで、これまで表現してきたものを昇華させていく。

パワー全開の中田佳代子さん。その後ろに、三枝雄輔さんが居ることの安心感。

アクセサリーも花も色も柄もいらない、身一つの表現に惹きつけられる。そして、大きな愛を感じるこの表情。

スポットライトの中、会場に何かを渡すような姿で、幕が下りた。拍手。

型があるから型破りなことができる。出演者のフラメンコが確かなものだから、フラメンコでそれ以上の表現に向かうことができるのだと感じた。また、和の楽器、和の歌声とフラメンコ音楽との融合は想像を超えていた。この表現にたどり着くまでどれだけの道のりがあったのかと想いを馳せずにはいられなかった。
(写真・文 Flamenco2030事務局 萩森琴美)

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